武田に手を掴まれ、パーティを抜けだそうとしたリカ。
しかしタイミング悪く、履いていたパンプスのヒールが取れてしまう。
あまりの情けなさに、リカは足元に目を落としたまま、

「ごめん、パンプスのヒールが折れちゃって…。このままじゃ歩けないし、今日は帰るね。」

そう告げて武田の手をそっと外す。

「そっか…強引に連れ出しちゃってごめん。じゃあ、また次の機会に。」

武田は残念そうなそぶりを見せながらも、明るくリカを見送った。



パーティの数日後、リカはヒロキとショッピングに出かけていた。

リカは服やアクセサリーを数点選び、iDでさくさく支払いを済ませる。
そんな姿を、ヒロキは何か言いたげに見ている。

そのあとのショッピング中にも、ヒロキはスマホばかり触っている。
つまらなそうな様子を見て、リカは提案した。

「ヒロキに似合いそうな服見つけたんだけど、ちょっと試着してみない?」

しかし、期待とは裏腹に

カフェ入ろうよ。俺疲れたわ。」

そう言って大荷物を抱えたリカを置いて歩きだした。
その姿に、リカの心の中にあった違和感が膨らむ。

カフェに入るとヒロキはすぐさま店員に、

「俺、アイスコーヒー。早めに持ってきて。」

―まただ。機嫌が悪くなると、ヒロキはいつもこう…。

店員に対する横柄な態度や、自分本位の言動にもう気付かないふりをすることはできなかった。
その瞬間、ヒロキに対する自分の気持ちが以前とは変わってしまったことを悟った。

「そろそろ出よう。」

ヒロキは伝票を持ってレジに行き、現金で支払いを済ませた。
帰り道、リカは勇気を出して切り出した。

「ねえ、今日機嫌悪いよね。わたし、何か怒らせるようなことした?」

「いきなり何なの?」

いかにも面倒くさそうに大げさなため息をつく。
話し合う気すらない様子を見て、ヒロキとの将来が描けないことに気付いた。

―これ以上一緒にいても辛いだけかもしれない。

「分かった。もう会うのやめよう。」
リカはそれだけ言うと、黙り込むヒロキに背を向けて歩き出した。
あまりにあっけない恋の終わりに、涙すら出ない。
気分転換に音楽でも聞こうと思い、スマホをカバンから出そうとしたが、見当たらなかった。
どこかに忘れてきてしまったようだ。

リカが急いで今まで来た道を戻り、スマホを探しながら歩いていたその時。
一台の車が停まり、窓が開くとそこには武田の姿があった。

「リカちゃん?どうしたの、何かあった?」

慌てた様子のリカを見て、武田は車から降りて駆け寄る。

「実はスマホ失くしちゃって…電子マネーも入ってるから、どうしよう…。」

「え!それは大変だね。一緒に探すよ。でも遠隔でロックできるものも多いから、そんなに心配しないで。」

「そうなんだ、良かった。」

「ロックしたらGPSで探してみようか。」

武田のお陰で、スマホはカフェに置き忘れていたことが分かった。

「今から取りに行こう。カフェまで送るから乗って。」

店に着くとリカは店員からスマホを受け取り、すぐに利用履歴を確認した。

不正利用もされていないことが分かり、ほっと胸をなでおろす。

「無事に見つかって良かった。スマホを失くすなんて、何かあった?」

そう穏やかに話す武田を見たリカは、込み上げてくる涙を我慢できなかった。

「…もし良かったら、今から少し出掛けない?」

ハンドルを握った武田が、リカに尋ねる。

「どこに行きたい気分?」

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