「ママ、だっこ!だっこして!」
シホは2歳の息子を抱っこしながら、公園の自販機でジュースを買うために鞄の中から財布を取り出し、小銭を探した。

シホは育児をするようになってから、お金を素手で触ることに前よりも抵抗を感じるようになった。お金を触った手で子どもに触れたり、子どもにあげるおやつや食材を触るのは衛生面で気になるからだ。
急いで100円玉をつかみ自販機に投入しようとしたとき、手が滑り小銭を落としてしまった。

「落ちましたよ。」

いつの間にか横に立っていたすらりとした女性が小銭を拾い、シホに手渡す。

「あ、ありがとうございます。」

―この人、何回かこの公園で見かけたことある。いつも荷物が少なくて身軽で私と大違い…。

女性はシホと同じように子どもを抱えながら隣の自販機にスマホをかざし、飲み物をサッと買うと会釈をしてブランコの方へ去って行った。

―今、どうやって飲み物買ったんだろう…?

小銭を出さずに自販機から購入する様子を見て、シホの中に疑問が残った。
公園から帰りご飯を済ませ、息子を寝かしつけてリビングに戻ると夫のコウタが帰宅している。

「おかえり~、ご飯食べる?」

「あ、いいや。後輩と軽く食べてきちゃった。ビールある?」

そう言ってテレビのスイッチをつけ、晩酌を始めてしまった。こうなるとシホが何を話しても生返事しか返ってこない。
最近、コウタはいつもこうだ。仕事から帰宅するとすぐにテレビに向かい、シホとはろくに会話もしない。
今日あったこと、ママ友との付き合い…シホは何でもいいから話したいし聞いてほしいのに、シホが話しても「そっか」の一言で終わってしまう。
シホは妊娠をきっかけに勤めていた会社を退職し、今は専業主婦をしている。
家事は嫌いじゃないし、子どもとの時間は大切で今の生活に張り合いを感じている。
仕事を辞めたのも自分の意志だった。

それでも、毎日慌ただしく過ぎていく日常に、どこか不安と焦りを感じている自分もいた。

翌日、いつものスーパーのレジで並んでいると、昨日出会った女性を見つけた。

女性はレジの人に「iDでお願いします」と告げると、iDと連携させたスマホをかざし、会計を終わらせると颯爽とスーパーを後にした。

―昨日の自販機といい、スマホをかざしていたのは電子マネーで支払うためだったんだ。スマートでかっこいいな。

シホも自分の会計を済ませたものの、彼女のスマートさに比べ、大きな鞄から財布をごそごそと引っ張り出しお札や小銭を数えながら支払っている自分が、なんだかモタついているような気がした。
それに支払いに時間がかかっていると、混雑する時間帯は後ろに並んでいる人に申し訳なく感じてしまうのだった。

周りを見渡すと、電子マネーやカードで支払いをしている人が前よりも増えていることにシホは気づいた。

その後、絵本でも買おうと本屋で雑誌を眺めていると、もう何年も読んでないようなファッション誌に目が留まった。

―久しぶりにこういう雑誌でも買ってみよう。

シホはいつものように現金で支払おうとして小銭を出したが、あと数円足りなかった。お札入れを見ると、ATMで降ろしたばかりのキレイな一万円札しかなかった。
少しためらいつつも、一万円札を出して雑誌を購入した。

―はぁ…お財布がおつりでパンパン。さっきの電子マネーがあれば便利なんだろうな。

子どもを寝かしつけた後、昼間買った雑誌を眺めていた。自信に溢れキラキラした女性たちを見て、シホはこんなに心がときめくのはいつぶりだろうと考えた。

―みんなキレイでおしゃれ。毎日余裕がなく過ごしている私には関係のない世界よね。なんでこんな雑誌買っちゃったんだろう。

普段の生活とのギャップにため息をつき雑誌を閉じようとしたとき、ふと最後のページに目が留まった。

『読者モデル募集中!』

さらにその特集ページには、昨日と今日見かけた女性が読者モデルとして載っているのだった。
彼女の私生活が紹介され、iDを使ってスマートな生活を送っている様子も紹介されていた。
―あの人、読者モデルだったんだ!愛用している電子マネーは…iD? 私のスマホやカードにも載っていたような。でも、私には関係のない世界よね。

頭ではそう考えつつも、シホはこのページから目が離せないでいた。

翌日、いつものように家事をしつつも、読者モデル募集の記事とあの女性の記事が、まだシホの頭から離れないでいた。今日はちょうど母親が来てくれていて、息子と公園に遊びに行っている最中だ。

―私もちょっと変わらなきゃ。まずはiDを使ってみようかな。

そうして、自分のスマホにiDを設定してみようと思い立った。
シホが思っていたよりも、設定は簡単ですぐに終えることができた。
大きな財布が不要になったことに、シホは少し高揚感を覚えた。

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スマホにiDを設定してみたシホ。
するとドラッグストアで・・・
第2話公開!