―私が読者モデル?本当になれるの?
シホは女性に話を聞こうと周りを見渡したが、すでに女性の姿は見えなくなっていた。
-今日は家に帰って、落ち着いて考えてみよう。その間に、もう少しおしゃれも頑張ってみようかな。
シホはまだドキドキしている胸に手を当てて深呼吸をし、もらった名刺を大切に鞄にしまった。
スカウトを受けた日から、シホは家事や育児の合間にメイク・ファッションを勉強していた。
毎日テレビや雑誌、SNSで情報収集し、読者モデルもたくさんフォローしている。
そして一ヶ月後、シホはアパレル販売員の仕事をしていたときの元同僚から連絡があり、ランチをすることになった。
店の前で待ち合わせ、元同僚はシホ見るなり
「久しぶり!シホだいぶ雰囲気変わったね~!」
と驚いていた。
ランチを食べながらお互いの生活や一緒に働いていたときの話で盛り上がっていると、ふと元同僚が
「実は販売員の仕事は続けながら、アクセサリーを手作りして売ってるんだ。」
と、自分のショップのSNSアカウントを見せてくれた。
「雑貨やアクセは誰でも作れるし、アプリで売ったりできるのよ。いつか自分のお店を持つことが私の夢なの。」
「夢を持てるのはかっこいいよ。私も読者モデルに憧れておしゃれを頑張ってみてるけど、全然モデルさんたちに近づけている気がしないんだ…。」
「努力も大事だけど、見た目とか関係なく、とにかくやりたいから挑戦しよう!って気持ちが大事なんじゃないかな。そうじゃないなら、スッパリ諦めた方がいいかもね。」
元同僚はいつもストレートに意見を言ってくれる。
たまに傷つくことはあるが、優柔不断なシホにとってはありがたい。
「シホは服飾関係の学校に行ってたんだから、おしゃれな服を着るより、作る方を目指してみたら?」
「自分で洋服を作る…か。」
「あ、もうこんな時間。そろそろ行こうか。」
と元同僚が言い、二人でレジへ向かった。
iDで会計を済ませたシホに続き、元同僚もiDで支払うようだ。
元同僚はスマホをかざしながら振り向いてシホに言った。
「最近は外出するとなんでもスマホで払っちゃう。iDは支払った分だけ、登録したクレジットカードのポイントも貯まるからお得よね。」
「うん、消費税も上がったし、今だとキャッシュレス決済で還元が受けられるのも助かるわ。」
シホが家に帰り子どもと遊んでいると、子どもの服に穴が空いている事に気づいた。
「どこに引っ掛けたんだろう。直さなきゃ…。」
と言ったとき、シホは元同僚の言葉を思い出していた。
(おしゃれな服を着るより、作る方を目指してみたら?)