シホは元同僚の言葉を思い出した。

(おしゃれな服を着るより、作る方を目指してみたら?)

ーでも、せっかくここまで頑張ってきたのに…。
と考えたとき、シホは初めて「読者モデルになりたい」ではなく「諦めたくない」と消極的な気持ちでいたことに気付いた。

―諦めちゃうと、これまでの努力が無駄になりそうで怖かったのかも。

そう認めると、シホは心のモヤモヤが晴れたような気がした。



「ママ、大丈夫?お洋服捨てちゃう?」
考え込んでいたシホの顔を覗き込むように子どもが話しかけた。

「ううん、これくらいなら直せるよ。」
シホは学生時代から愛用している裁縫箱を取り出し、洋服の穴にワッペンを縫い付けて直してみた。

「はい、お洋服直ったよ~。」

「わー、ボクの好きな飛行機だ!ママすごい!ぼく、この服ずっと大事にする!」

嬉しくて部屋中を走り回る子どもの姿を見て、シホは心が満たされるのを感じた。

―やっぱり、子どもの喜ぶ姿を見るのが一番幸せ。
シホは、子どもと一緒におしゃれを楽しみたいと思い、自分の好きなデザインで子ども服を作ってみることにした。

翌日、シホはショッピングモールへ向かった。
洋服作りに必要な道具を揃え、ついでにコウタの衣類や子どもの絵本なども買った。

ショッピングモールでの買い物も、最近はiDだ。
サインがいらないため荷物で手がふさがっていても難なく会計ができる。
シホは改めてiDを使い始めてよかったと感じた。

そして家に帰り、さっそく洋服作りに取り掛かった。

ー何年も洋服なんて作ってなかったのに、意外と覚えているもんだな。

シホは家事や育児の合間をぬって作業を進め、最初の一着が完成した。

さっそくSNSに投稿してみると、元同僚やママ友たちからイイネがあったりコメントがきたりと、シホの子ども服は好評だった。

そして、何着か作りアプリを使って販売も始めると、徐々にファンが増え注文も入るようになった。

―自分の作った洋服で喜んでもらえるのって、こんなに幸せなんだ。

そんなことを感じながら、シホは充実した毎日を送っていた。

そしてある日、SNSをチェックしていると、自分が作った服を着た子どもの写真を見つけた。

アップしているのは人気のママ読者モデルのアカウントで、フォロワーも多い。
さらに他の投稿も見てみると、シホはあることに気付いた。

-この人、公園で何度か見かけていた女性だ。

iDでスマートに買い物をし、シホが読者モデルに興味を持つきっかけとなった女性。
シホがあの日彼女を見かけていなかったら、いま、子ども服を作って売っていることもなかっただろう。

―人生って、ほんの少しのことで大きく変わるものなんだ。

と、しみじみ思いながら、自分の未来を変えるのは「自分の選択」であることをシホは確かに感じていた。

Fin

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