クライアントへの提案を数日後に控え、中村は突然自分の提案をプレゼンすると言い出した。
―どれだけ身勝手なんだ、この人は。
ケンタは必死で怒りを抑えつつ、絶対に譲らない姿勢を見せる。
「今までクライアントとの信頼関係を築いてきたのに、途中で降りるだなんて無責任なことはできません。」
「そこまで言うってことは相当な自信があるんだな?じゃあ、俺の提案とケンタの提案、どちらを出すか課長に決めてもらえば文句ないだろ。」
「いいですよ。そのときは課長の判断に従います。」
ケンタは、自分がまとめた資料を課長に提出した。
クライアントへの提案前日、ケンタと中村は課長のデスクの前にいた。
ー正直、どちらが選ばれてもおかしくない。
ケンタは自分の提案に絶対的な自信があったが、中村の提案も悔しいほどに良いものだった。
「難しい案件、よくここまで仕上げたな。明日この資料を持って札幌に行ってくれ。」
手渡された資料は、ケンタが提案したものだった。
「ありがとうございます!」
課長に一礼し、ケンタはほっと胸をなでおろす。
「中村も、賀来のフォロー頼むよ。」
「…分かりました。」
そう言葉を残し、足早にフロアから出て行いく中村。今自分が追いかけても何も言えないだろう…。認めてもらうには、結果を出すしかない。
―自分はまだ、スタートラインに立っただけだ。
翌日、気まずさが残るケンタと中村は、直接クライアントのビルの前で合流することにした。
早々に羽田空港に到着したケンタは、空港内の本屋に立ち寄る。ケンタは、本を選んでいる時間が好きだ。読書は、一度頭をからっぽにして整理するための気分転換でもある。
文庫本の新作コーナーから1冊を選び、会計に並んだ。
財布を見るとお札しかなかったが、ケンタは小銭が増えるのも好きじゃない。
スマホをかざし、会計を済ませて搭乗口に向かった。
札幌に到着すると、ケンタはタクシーを拾った。
クライアント先への移動中、資料の最終チェックとプレゼンのイメージを膨らませる。
―大丈夫だ。しっかりと準備はできている。
iDでタクシーの支払いをスピーディーに済ませ、車を降りた。
少し遅れて到着した中村と軽く挨拶を交わし、クライアントの元へと向かった。
「…であることから、このような成長が見込めます。」
ケンタは何度もイメージしたとおり、順調にプレゼンを進めていた。
しかし、予想していないタイミングで飛んできた質問に一瞬固まってしまうと、
「その点については…」
と中村がすかさずフォローに入る場面もあった。
「…というのが、弊社からのご提案です。ご不明点やご指摘がありましたら伺います。」
ケンタはプレゼンを終えて相手の反応を待つ。
「うん、すばらしい!この案なら、こちらで想定していた以上の結果が出せるよ。賀来くん、よく頑張ってくれた。中村くんもありがとう。」
「ありがとうございます!今後ともよろしくお願い致します。」
二人は揃って頭を下げ、会社を後にした。
大声で喜びたい気持ちを抑えつつ、ケンタは中村に言った。
「中村さん、プレゼンの途中、フォローしてくれてありがとうございました。」
「何だよ急に…でも今回さ、ケンタの提案で良かったよ。正直、オレのだったらあそこまで喜んでもらえなかったと思う。」
「そんなことないですよ。今回は、中村さんがいたからこその結果です。中村さんと張り合うことで、自分も負けていられないと思って努力できました。」
「…実はオレ、入社間もないのに何でもできるお前に嫉妬して、わざと振り回すような態度を取ってたんだ。悪かった。」
中村がライバルとして認めてくれていたことに、ケンタは誇らしい気持ちになった。
「よし、今日は飲み行くか!これまでケンタに払わせてた分、今日ちゃんと返すわ。」
「え?やっぱりわざとだったんですか!?」
―ここなら、もっと成長できる。互いに切磋琢磨できる仲間にも出会えた。
ケンタは改めてこの会社に転職して良かったと実感した。
「あと、ちょっと行き詰ってる案件があってさ…。」
「僕で良ければいつでも。」
ケンタは、期待とやる気に満ちた表情を浮かべた。
アンケートへのご回答ありがとうございました
ハイスペサラリーマン ケンタの応援ありがとうございました!
物語は最終章。新卒社会人 アキのストーリー、公開!