憧れの存在である大沢先輩から突然ランチのお誘いを受けた新卒入社のアキ。
緊張しながらも、先輩と一緒にオフィス近くのイタリアンのお店に入った。
それぞれ注文し終えると、大沢先輩がさっそく話を切り出す。
「アキちゃん、仕事は楽しい?」
まっすぐ見つめる瞳に、アキはつい下を向いてしまう。
「いえ…コスメが好きで入社したんですが、仕事となると思っていたよりずっと難しいです。昨日もプレゼンで何も活躍できなくて…。」
「活躍なんて、気が早いなぁ」
「え…あ…すみません!」
「ううん、そういう意味じゃなくて!アキちゃんが何か焦ってるように感じたの。」
―見透かされている。
アキは急に自分の居場所がないように感じ、黙り込んでしまった。
「周りや先ばかりを見るんじゃなくて、まずは今を大切にしてみたらどうかな。大型クライアントのプレゼンに同行もできたんでしょ?期待されてて、すごいじゃない!」
「…そんな風に考えたことありませんでした。」
大沢先輩は目を丸くするアキに微笑みかけ、
「私も入社したてのときは、全然ダメだったんだ。毎日怒られてばかりで…今思い返すとなつかしいな。」
と、自分の失敗談を交えながら励ましてくれた。
食事を終え、席を立ってレジへと向う2人。
財布を出そうとするアキをそっと制して、大沢先輩はスマホをかざすと、iDを使ってアキの分までごちそうしてくれたのだった。
憧れの先輩と過ごせたことで足取り軽く社に戻ると、アキは早速パソコンに向かう。
―よし、次こそは認めてもらえるように頑張ろう!
夢中でプレゼン資料を作り終えると、いつの間にか定時を大幅に過ぎていた。
―もうこんな時間。お腹空いたな…。
ちょうど帰ろうとしていた仲の良い同僚に声をかけ、一緒に近くのファストフード店でご飯を済ませることにした。
料理を注文し、大沢先輩のマネをしてICカードで払おうとするアキ。
―これで私もスマートな先輩に近づけるかな…。
「お客様すみません、残高が足りないようです。」
慌てて財布を取り出し、結局現金で支払いを済ませる羽目になってしまった。
一方、隣のレジで注文していた同僚はチャージ不要なiDで素早く会計を済ませ、席を取って待ってくれている。
食事をしながら、アキは今日のランチの話をしてみた。
「今日初めてしっかり話せる機会があったんだけど、やっぱり大沢先輩ってすごいよね。優しくて、おしゃれで、ホント完璧。」
「先輩とランチいいな~。」
「私もいつか先輩みたいな女性になれるかな?」
「みんなの憧れだよね。私もいろいろ頑張ってるけど、全然先輩に近づける気がしないよ。」
「え…いろいろって?」
「ビジネス書を読んだり仕事のメモを休日に見返して早く仕事を覚えられるようにするとか。」
「そうなんだ…。」
―私は怒られて落ち込んでばかりいたけど、その間にもみんなは頑張っていたんだ…。
同僚と別れた帰り道、アキは今後どうするべきか考えてみた。