とりあえず、気分転換をしてスッキリした頭で考えよう。
アキは翌日デパートへ向かい、雑誌でチェックしていた新色のリップを購入した。
日本ではなかなか手に入らない、限定品のリップだ。
帰宅後、さっそく新しいリップをつけてみる。
リップだけで顔の印象ってこんなにも変わるんだなぁ。…やっぱり、メイクって楽しい!
アキは大好きなことに関わる仕事をしていることを改めて実感し、もっと認められたいと強く思った。
それからしばらく経ったある日、アキは同僚と春服を揃えるためにアウトレットへ向かった。
スプリングセールが開催されているために多くの人が訪れており、二人はスマホを片手にレジを待つ。
「ちょうどいま、iDのお得なキャンペーンがアウトレットで開催されているんだって!ラッキー。」
「実は私もiDデビューしたんだ。混んでいる場所で会計にもたつくと気まずいし、荷物が増えてもiDなら片手で支払えるからラクだよね。」
iDで春服を買うことができた2人は、カフェで食事をしながら会話を楽しむ。
「アキ、今日のアイメイクいつもと違うね。」
「気づいた?実は、いくつかのアイシャドウを使って自分で色を組み合わせてみたんだ。」
「よく似合ってる。アキはどんどん新しいアイデアを思いつけるからうらやましいなぁ。」
「次の新商品のプレゼンも、このカラーをベースに提案してみるつもりなの。」
アキは社内コンペで出したアイシャドウの新色のアイデアが採用され、大きなクライアントへのプレゼンを任されていたのだ。
ついにプレゼン当日、アキは会議室で大人数を前に説明を始める。
多少緊張はしたものの、何度も繰り返した練習通りに話し終えることができた。
「以上が弊社からの提案です。ご不明な点やご質問はあるでしょうか。」
すると、一人の男性が手を挙げた。
「全体的にもっと具体的な意図や背景について説明いただきたいです。例えばターゲットへのアプローチについて、この方法を一番に勧める理由は何でしょうか?」
「は、はい。一番の理由としては、最近SNSで流行っているので…」
「それによってどのような効果が期待できるのでしょうか。」
「…えっと、あの…。」
フォローしなきゃと思いつつも、焦れば焦るほどアキは言葉に詰まってしまう。
「御社からの提案にはいつも期待していたのですが、今回は残念です。」
ハッキリと否定され、アキは自分の未熟さを思い知らされた。
―自分のせいで、取り返しのつかない失敗をしてしまった…。
「先輩、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
会社への帰り道、アキは大沢先輩に謝った。
ランチをきっかけに先輩もアキを気にかけてくれるようになり、プレゼンにも同行してくれたのだ。
「…アキちゃんはもっとできると思ってたんだけどなぁ。」
先輩から初めて厳しく言われ、アキは地面を見つめたまま顔を上げることができなかった。